2017-05-21から1日間の記事一覧
パンをつれて、愛犬のパンザをつれて私は曇り日の海へ行く パン、脚の短い私のサンチョパンザよどうしたんだ、どうしてそんなに嚏くさめをするんだ パン、これが海だ海がお前に樂しいか、それとも情けないのか パン、海と私とは肖てゐるか肖てゐると思ふなら…
私は峠に坐つてゐた。 名もない小さなその峠はまつたく雜木と萱草の繁みに覆ひかくされてゐた。××ニ至ル二里半の道標も、やつと一本の煙草を喫ひをはつてから叢の中に見出されたほど。 私の目ざして行かうとする漁村の人々は、昔は每朝この峠を越えて魚を賣…
雌鷄が土を搔く、土を搔いては一步すさつて、ちよつと小頸を傾ける。時雨模樣に曇つた空へ、雄鷄が叫びをあげる。下女は庭の落葉を掃き集めて、白いエプロンの、よく働く下女だ、それに火を放つ。私の部屋は、廊下の前に藤棚があつて、晝も薄暗い。ときどき…