三好達治bot(全文)

twitterで運転中の三好達治bot補完用ブログです。bot及びブログについては「三好達治botについて」をご覧ください

2017-03-30から1日間の記事一覧

「廃馬」『艸千里』

遠く砲聲が轟ゐてゐる。聲もなく降りつづく雨の中に、遠く微かに、重砲の聲が轟ゐてゐる。一發また一發、間遠な間隔をおいて、漠然とした方角から、それは十里も向うから聞こえてくる。灰一色の空の下に、それは今朝から、いやそれは昨日からつづいゐる。雨…

「おんたまを故山に迎ふ」『艸千里』

ふたつなき祖國のためとふたつなき命のみかは妻も子もうからもすてていでまししかの兵つはものは つゆほどもかへる日をたのみたまはでありけらしはるばると海山こえてげに還る日もなくいでまししかのつはものは この日あきのかぜ蕭々と黝みふくふるさとの海…

「大阿蘇」『霾』

雨の中に馬がたつてゐる一頭二頭仔馬をまじへた馬の群れが 雨の中にたつてゐる雨は蕭蕭と降つてゐる馬は草を食べてゐる尻尾も背中も鬣も ぐつしよりと濡れそぼつて彼らは草をたべてゐる草をたべてゐるあるものはまた草もたべずに きよとんとしてうなじを垂れ…

「自画像」『霾』

★ ここに會した翼ある空のルンペン 僕は無料宿泊所だ天使がくる 梟がやつてくる 僕らは君らに切符をあげる君らは眠るがいい 朝の子たち夜の子たち 君らみな空腹のハンモツクに搖られて ★ 太陽の下 水の上煙の頸環を風にくれて 僕は川波を蹴つて進む僕はポン…

「鴉」『霾』

一日、私は窓外の築地の甍に、索索たる彼の跫音を聽いた。塵に曇つた玻璃窓の眞近に、彼は一羽、さも大事の使者のやうに注意深く、けれども何の臆面もなく降りたつてゐた。さも惶だしげに、けれどもまたさも所在なげに、彼は左右を顧み、わづかに場所を移り…