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三好達治bot(全文)

twitterで運転中の三好達治bot補完用ブログです。bot及びブログについては「三好達治botについて」をご覧ください

「故き胡弓」『測量船拾遺』

秋なりふるき胡弓を彈かましか 秋なり 秋なりいとちひさなる草の實も 日ねもす秋を飛びゆくかな 今し季節の船出する湊の鐘を聽けよかし 空に銅羅は叩かれて落ち葉は谿をわたりくる 秋なり 秋なりふるき胡弓を搔い鳴らせ 何の情緒かとどまらんあわただしくも…

「王に別るる伶人のうた」『測量船拾遺』

空に舞ひ舞ひのぼり噴水はなげきかなしみひとびとうなじたれ花をしくなり 哀傷の日なたに花はちり花はちり見たまへかし王がいでましのすがたなり 風に更紗のかけぎぬふかせゆるやかに象があゆめばみ座ゆれゆれ光り金銀の鈴がなるなり 象の鼻をりふしに空にあ…

「パン」『測量船』

パンをつれて、愛犬のパンザをつれて私は曇り日の海へ行く パン、脚の短い私のサンチョパンザよどうしたんだ、どうしてそんなに嚏くさめをするんだ パン、これが海だ海がお前に樂しいか、それとも情けないのか パン、海と私とは肖てゐるか肖てゐると思ふなら…

「峠」『測量船』

私は峠に坐つてゐた。 名もない小さなその峠はまつたく雜木と萱草の繁みに覆ひかくされてゐた。××ニ至ル二里半の道標も、やつと一本の煙草を喫ひをはつてから叢の中に見出されたほど。 私の目ざして行かうとする漁村の人々は、昔は每朝この峠を越えて魚を賣…

「峠」『測量船』

私は峠に坐つてゐた。 名もない小さなその峠はまつたく雜木と萱草の繁みに覆ひかくされてゐた。××ニ至ル二里半の道標も、やつと一本の煙草を喫ひをはつてから叢の中に見出されたほど。 私の目ざして行かうとする漁村の人々は、昔は每朝この峠を越えて魚を賣…

「落葉やんで」『測量船』

雌鷄が土を搔く、土を搔いては一步すさつて、ちよつと小頸を傾ける。時雨模樣に曇つた空へ、雄鷄が叫びをあげる。下女は庭の落葉を掃き集めて、白いエプロンの、よく働く下女だ、それに火を放つ。私の部屋は、廊下の前に藤棚があつて、晝も薄暗い。ときどき…

「海は今朝」『砂の砦』

海は今朝砂の上にきて笑ふ巖のはなから月の出にゆうべまた若い女が身を投げた海は今朝砂の上にきて笑ふひと晩暈(かさ)をきてござつたお月さまは西の空に無慈悲な海よ薄情者よけれどもやさしくなつかしい今朝の海よ姿のない木魂のやうな夏の日の通り魔よ紺…

「馬鹿の花」『砂の砦』

花の名を馬鹿の花よと童(わらは)べの問へばこたへし紫の花八月の火の砂に咲く馬鹿の花馬鹿の花三里濱三里の砂の丘つづきこの花咲きて海どりの白きむらがり古志(こし)の海日すがらここにとどろけり朱きふどしの蜑の子ら松の林にあらはれてわめきさざめき…

「春の日の感想」『砂の砦』

庭に出て樂々と膝をのばさう艸の上にでて疲れた脚をなげださうながいながい冬の日の後に來たこのゆるやかな感情この暖かい陽ざしこの新らしい季節の贈ものをからだいつぱいいそいでからだいつぱいにうけとらうさうしてこのうち烟つた野山の間にわれらの心を…

「宵宮」『砂の砦』

星が出た枯木の山のいただきに星が一つ今日はもうそこで終つた今日はもう小鳥のうたふ歌も終つた明日の新らしい太陽の外もう一度誰が彼らをうたはせよう彼らは谷間の藪にかへつた彼らはその塒にかへつた栗鼠や兎やももんがや夜出て働くものの外われらの仲間…

「砂の砦」『砂の砦』

私のうたは砂の砦だ海が來てやさしい波の一打ちでくづしてしまふ 私のうたは砂の砦だ海が來てやさしい波の一打ちでくづしてしまふ こりずまにそれでもまた私は築く私は築く私のうたは砂の砦だ 無限の海にむかつて築くこの砦は崩れ易いもとより崩れ易い砦だ …

「赤き落日にむかひて」『砂の砦』

赤き落日にむかひてわれは路なき砂をくだりひとり砂丘を越えてゆく遠き日ごろもかかりしに人の世のげにけながくも暮れてゆくかかる身空やよしや頰(ほ)の風にむかひて熱き日もいまははや泪おちず冬の日の雲は彼方にみな低く沈みあつまりこごりたり淡々し 消…

「竹の靑さ」『砂の砦』

竹の靑さは身に透る竹の靑さは骨にも透るああ竹竹靑く煙つた大竹藪に鳩が一羽舞ひたつた夢のやうに羽音もなく靑い煙にかすんで飛んだそのあとをまた一羽はたはたと斜に空へ拔け去つた日暮れどきの竹藪は靜かな海の底のやうだかうして私は爪先のぼりに丘の小…

「淚をぬぐつて働かう/丙戊歲首に」『砂の砦』

——丙戊歲首に みんなで希望をとりもどして淚をぬぐつて働かう忘れがたい悲しみは忘れがたいままにしておかう苦しい心は苦しいままにけれどもその心を今日は一たび寛がうみんなで元氣をとりもどして淚をぬぐつて働かう 最も惡い運命の颱風の眼は過ぎ去つた最…

「氷の季節」『砂の砦』

今は苦しい時だ今はもつとも苦しい時だ長い激しい戰さのあとで四方の兵はみな敗れ家は燒け船は沈み山林も田野も蕪れてこの窮乏の時を迎へる七千萬のわれわれは一人一人に無量の悲痛を懷いてゐる怒りや失意や絕望やとりかへしのつかない悲しい別離や痛ましい…

「橫笛」『故鄕の花』

幼き子らが月日ごろなにの愁ひをくれなゐの唇(くち)もきよらにつれづれと吹きならひけんいまほのぐらきものかげのかばかり塵にうづもれてふしまろびたる橫笛昨日子らは晴衣きて南のかたに旅だちぬ――かくはえうなく忘られて朱(あけ)もふりたる歌口をあり…

「海邊暮唱」『故鄕の花』

彼方に大いなる船見ゆ敵國の船見ゆいえいえあれは雲です彼方に靑き島見ゆ島二つ見ゆいえいえあれは雲です ひと日暮れんとして悲しみ疲れたるわれらが心の上にいま大いなる天蓋(きぬがさ) 夕燒の空は赤く燃えてかかりたり深き憂愁と激しき勞役との一日(い…

「歸らぬ日遠い昔」『故鄕の花』

歸らぬ日遠い昔歸らぬ日遠い昔(聽くがいい そらまた夜の遠くで木深い遠くの方で梟が啼く)遠い昔だ何も彼も雁(がん)も鳩も木兎もみんな行方(ゆきがた)しれずだよあの子もどこでどうしたやらつり眼狐の晝行燈病身のいつも無口な子だつたが靑い顏していぢ…

「池のほとりに柿の木あり」『故鄕の花』

池のほとりに柿の木あり幹かたむきて水ふりし堤のうへをゆきかよふ路もなつかし艸靑き小徑の彼方松高く築地(ついぢ)は低き學び舍やにわれは年ごろ何ごとを學びたりけん今は記(おぼ)えずなべては時の死の箒(ははき)ははき消しゆくをちかたのあとさきに…

「島崎藤村先生の新墓に詣づ」『故鄕の花』

しづかなる秋の朝なり鵯どりら空によびかひ林より林にわたるしづかなる秋の朝なり百舌はまたさらに高音を張りて啼け世はひそかなりこよろぎの濱のおほ波ゆるやかにくづるるさへやここにして聽けばかそけしこの庭にいま陽ざしおつ斑々(はんはん)とかくはさ…

「さくらしま山」『故鄕の花』

いるかとぶ春の海原しぐれふりやがてかくろふさくらしま山 九天ゆ直下す三機あなさやけさくらしま山雲のかげ見ゆ いくさある海のはてよりかへりこしいくさぶねはつさくらしま山 ○ ふたくさのこほろぎのこゑおこるなり庭の畑に日のてるしづか 海靑し小松林の…

「時雨の宿」『故鄕の花』

かすかなるかすかなる聲はすぐはらはらと今ふりいでし雨の音ひそかに軒を走る夜時雨ふるかかる夜頃(よごろ)を音(ね)もひくく渡るは何の鳥ならんかすかなるかすかなる聲はすぐ 聲はかたみに呼びかはしちちとのみただひくくかすかにかたみにつまをたのむら…

「出發」『駱駝の瘤にまたがつて』

まんとの袖をひるがへし、夕陽の赤い驛前をいそぐ時、海のやうに襲つてくる一つの感情は甘くして、またその潮水のやうに苦がい。人はみな己れの影をおふてゆく、このひからびた砂礫の上に、彼方に遠く疲れた雄鷄の鳴く日暮れ時、私の見るのは一つの印象、谿…

「涕淚行」『干戈永言』

……………………敵壘下咫尺の壕に肉薄し夜を徹したり拂曉に突撃せんとす……かかる時四もは寂寞星しげき阜(つかさ)のかげに君が書を讀む兵ありと君やよし詩人(うたびと)の想(そう)に富ますも得ておもひ知りたまふまじ君が書はわが行嚢(かうなう)に門出の日負…

「蒼穹賦」『干戈永言』

八月二十日敵機九州北邉を侵す、わが邀擊機中敵機と高空に相衝擊して玉碎するもの三、操縦者山田野邉高木みな紅顔の靑年のみ、感に耐へず一詩を賦す。 嗚呼父の國母の國わが大君のしろしめす日の本の空この大空に戰ひて死ぬをほまれと靑雲のたたなはる上日一…

「リラの花匂ふ朝鮮」『干戈永言』

リラの花匂ふ朝鮮ポプラの並木高くはるかに灰色の鶴黃昏の川水にたたずむ朝鮮白衣の人彼方を步み艸靑く古墳のつかさつかさを覆へる丘べ松の根方に黃なる牛繫ぎ放たれてわがゆく小徑をさまたげし旅の思出古陵癈寺斷礎龜跌城あとに蒲公英咲き鵲はきみしき電柱…

「窗下の海」『干戈永言』

一 北海波黑く冰霰屡到る客愁また暗澹として何事か呼ばんと欲し更にまた緘默す嗚呼人(ひと)生を必せず死を必するの時白鷗烈風に啼く人事他なしただ心機一瞬を尚ぶべし 二 心機ただ一瞬を尚ぶべしたまたま我は家鄕をすて北海の濱に流寓す骨枯れ肉はたゆけれ…

「まつ靑な五月の空だ」『干戈永言』

まつ靑な五月の空だまつ靑な五月の海だ南へ南へ ぽつかり浮かんだ雲がいくつ しづかに南へ流れていくその下で海豚(いるか)のむれが踊つてゐる僕らはみんな砂濱にでて胸を張つて遠くを眺めた僕らは南の方の遠い水平線をみつめてゐた僕らはなにか大きな聲で…

「美なるかな神州」『干戈永言』

この日天靑きに風起り雲飛び雪ふる三度霰ふる三度す耳目凛烈怒濤海を囓み枯木みな鳴る昭和第二十肇國二千六百五歲々旦玆に越に假寓し身騾背にあるが如し白鷗窗を過ぎ寂寞として聲あるを聽く彼方山みな白き國土を望み步して我れ路上に彳ちまた往かんとすると…

「乾坤無韻」『干戈永言』

輕鞭一揮さへ寂寞聲あり 況や是れ大風支裂して高響君自ら聽く 年少敢爲の士已に立つ四大の外 波を踏み雲に駕し來る寇虜ただ戲影―― 昏愚骨枯れ日に頽然爐に感を作し馬齡を羞ず數々(しばしば) 噫乾坤もと韻なし嚠喨雲鶴號ぶ 三好達治「乾坤無韻」『干戈永言…

「神風隊てふ」『干戈永言』

十機ゆき十機かへらず百機ゆき百機かへらず神風隊てふ この日ゆく空のはやをら明日ゆかん伴(とも)もかへらじ神風隊てふ さきゆくはゆきてかへらずのちゆくもただにかへらじ神風隊てふ あなあたらうらわかき身をさけくだけかげもとどめず神風隊てふ 日の本…

「決戰の秋はきたれり」『干戈永言』

一すめらみくにの興廢はけふのいくさにかかりたりああこのいくさかたずんば祖宗のくにをいかにせん たて一億決戰の秋はきたれり 二すめらみくにのもののふがちしほにそめしくれなゐのなみのとたかし北海になみのとたかし南海に たて一億決戰の秋はきたれり …

「けふのこのおほみいくさに」『干戈永言』

けふのこのおほみいくさに勝たずんば亞細亞は亡ぶことあげはいかにいふとも人倫も學も技藝も産業も枯れ荒び朽ち大東亞十億の民はてしなき奈落に墮ちん敵はかの鐡の重壓カタピラの踏みゆくところ一穗の光明のたね一物の微だにあまさずすゑのすゑいやはての終…

「敵機來る」『干戈永言』

敵機來る敵機夜陰に乘じて來る敵機拂曉にまぎれてくる敵機また白晝われらの頭上を冒して來る敵機來る敵機遠く千里の外より神州の本土を侵攻し來れりわが精銳猛鷲百たびこれを擊ちて退くとも敵もまたこりずまに百たび來りさらにまた百たびもその意志をくりか…

「兵機深玄」『干戈永言』

サイパン敵手に落つ報は七月十八日十七時慘として一億が耳朶を撲ち肺腑に徹す寇虜日に勢を逞しくし南溟の要關つひに援けなく孤壘夷(たひら)ぎ火砲碎け硝藥盡き刀刃折る而もなほ守兵險に據り嵎を負ひ萬死の地寸土をだもかりそめにせずああ將士みな至尊のま…

「驅逐艦」『干戈永言』

空はまつ赤な夕燒の中を靜かにここに入つてきた驅逐艦驅逐艦が二隻港の島かげに舳(へさき)をそろへて碇泊した鋼鐡の軋るかすかな音が聞こえてくる甲板には人影がすばやく動いてゐる何か操作をつづけてゐるのだ遠い外洋から歸つてきた驅逐艦はまだ休息の「…

「旭日旗樹つ」『干戈永言』

サイパンは神州の南關旭日旗ここに翩翩と樹つ驕虜ここに蝟集し來り艦砲ここに直射し爆彈ここに雨ふれど旭日旗嚴として硝煙の間に樹つ戰艦咫尺に出没し飛機頭上を覆ひ輕舸走せ戰車驅り來り既にして敵勞われに幾倍勢に傲りて跳梁をほしいままにせんとす然れど…

「六月また來り」『干戈永言』

六月また來りみどり萌えさかえつばくらら軒端に孵りさへづれり麥の穗は黃ばみつらなりありなしの風にもふるへおののけりああ中世勇武のみいくさ四方(よも)に戰ひ四方に捷てどもしかれどもあたもまた未だ降らずしきりにはかりごとをめぐらし皇國の四邉に來…

「かの空を見よ」『干戈永言』

かの空を見よかの海を見よそこを戰(いくさ)の場(には)として眼にあまる敵と相擊ち敵をしりぞけ給ひける海の長(おさ)日出づる國の聯合艦隊司令長官海軍大將古賀峯一君つひに機上にたふれ給へりとこの日報あり一度(ひとたび)は山本提督二度(ふたたび…

「大東亞共榮圈の靑空は僕らの空」『干戈永言』

大東亞共榮圈の靑空は僕らの空日の丸ひるがへる空日の丸を翼にそめた荒鷲のとびかふ大空何人の侵すをゆるさず何人の汚すをゆるさず大東亞共榮圈靑空は僕らの空 大東亞共榮圈のはてしなき空の隅々敵機ばら百機來らばいざ百機のこさず擊ちて靑空の雲のうへより…

「ゆけ學徒」『干戈永言』

肇國二千六百餘歲國步いま 最も艱難の時にあたれりみ軍は四方(よも)に戰ひ 勝ちがたきいくさに捷てど賊虜また日に旺んに波濤を踐(ふ)み 長風に御しはるかに東西南北より神州の隙(げき)をうかがはんとすそらにみつやまとの國の名にしおふともの逸雄(は…

「夕立のとほりすぎた」『花筐』

夕立のとほりすぎた小徑のほとりの叢でいま鳴きはじめたばかりのきりぎりすしたたるばかり雨にぬれたそこのまつ靑な叢にかくれてそのまつ靑なからだをふるはせをののかせて鳴いてゐるきりぎりすきりぎりす自らのうたに調子づいていつそう心を張りつめへいつ…

「いのちひさしき」『花筐』

いのちひさしき花の木もおとろふる日のなからめやふるきみやこの春の夜にかがり火たきてたたへたる薄墨さくら枝はかれ幹はむしばみ根はくちぬみちのたくみも博士らもせんすべしらに枝を刈り幹をぬりこめたまがきにたて札たてて名にしおふ祇園のさくら枯れん…

「某造船所に於て」『寒柝』

歷史は一の運行にして船舶これを載せ、船舶これを運ぶ。今日鐵塊を擊ち、鐵板を截つて船舶を建造する者、卽ち兄らは兄らの雙手をもて國民の意志を押し切り、祖國の正義をはるかに萬里の外に布く者、まことに手づから今日の歷史を設計し運營し推進する者。兄…

「擊ちてし止まむ」『寒柝』

半宵眠り成りがたくひそかに思ふ萬里の外星かげまれなる夜陰をつらぬき一の艦影幻の如く煤煙遠くふきなびけ舷燈ことごとく滅して疾航(しつかう)し疾航するを――風はやし吹雪まひいでかぐろき怒涛舷側の飛沫聲あるものことごとく叫び吼え聲なき石は緘默(か…

「さくら」『寒柝』

丘のべにさくらは咲きぬ濠ばたにさくらは咲きぬ町びとのつきかふつむじ海とほく見ゆるつつみにげにうらうらとさくらの花はさきいでぬ萬里のほかにゑびすらをうらせたまひてうるそ身はかへりたまはぬ益良男のみたまいまかへりたまひぬしきしまのやまとの國に…

「一握の砂」『寒柝』

松の林のした草ははやうらうらと萌えてしが彌生高潮(やよひたかしほ)鳴るなべに坐りてむすぶ白砂はなほしをゆびにつめたけれつめたき砂をいくたびかわれはむすびつたなぞこにもろき小阜(つかさ)はくづほれぬそがひの山は暮るるとて彼方に赤き雲は燃ゆこ…

「桃の花」『寒柝』

そのこころうらうらとそのすがたたをやかに權(けん)たかききはにはあらぬそのよそひうすくれなゐにつつましきいざ彌生 ひいなまつりのもものはなさすたけのきみらのはなぞげにこのくにのをとめごらこのはなこそは――きのふけふしたてるばかりにさきにほふを…

「寒驛の晝」『寒柝』

あなあたらますら武夫(たけを)がうつし身はゑびすが彈丸(たま)にはじけとびたまひけらしなけふ春の野べをとどろと走りこしひとつらの汽車靖國のみたまをのせて雲雀啼く寒驛の晝しづかなる構舎に入りぬ昨(さく)の夜は警報布(し)きて村人らかたみにた…

「櫻花繚乱」『寒柝』

さくらの下に子らあまたつどひて遊べり うらうらとさくらの花のさきいづる並木のかげは ものなべてほのかににほひ明るみて 肌さむき日のうす陽さへわきてなつかし こぞの日のかかる春日(はるひ)もわれはこの水のほとりに 古椅子にいこひてものを思ひたり …