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三好達治bot(全文)

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「櫻花繚乱」『寒柝』

さくらの下に子らあまたつどひて遊べり

うらうらとさくらの花のさきいづる並木のかげは

ものなべてほのかににほひ明るみて

肌さむき日のうす陽さへわきてなつかし

こぞの日のかかる春日(はるひ)もわれはこの水のほとりに

古椅子にいこひてものを思ひたり

國こぞり讐のゑびすのかへり血の

みどりにそみてたたかへる野山はのどか

ほどちかき海の空よりきてまへる

鷗の翼かろらかになか空の風にあがれり

日の本はいくさする日もみやびかに

かしこに起る子らのうた

うらうらと櫻の花のさきいづるかげをゆきかふ

げにもこれおどろの路をふみわきて

われらの正義四方(よも)に布く

艱難と犧牲と榮譽

ふるき世にためしもあらぬ春の日を

はやかぐはしく散りいそぐ花は二ひら

三ひら五ひらわが袖にしばしやすらふ――

 

「櫻花繚乱」『寒柝』全文

「寒柝」『寒柝』

星冴え
山山か黝くたたずみ
聚落(じゆらく)寂莫として
灯火(ともしび)暗く睡れるに
丁鼕(ていとう)とはるかに馨あり
風死し
水渇れ
何ものの應ふるなきに
丁鼕と馨はひとり寒天に起り
闃(げき)たる彼方を步み來る
夜深くして睡らざるもの
凛烈たる意志
聽けそは如何に耳朶にこころよきかな
地表のものすべて今は結氷し 氷割(ひわ)れ 假死し
この尊ぶかき聚落の頭上滿天に
欄干(らんかん)たる星辰のみただ頻りにわななける折しも
ここに戞然として擊柝(げきたく)の馨路上にあり
そはわが窓下を過ぎ
遠く彼方に去る
頗る深省を發せしむるもの
まことに警世の馨といふべし
げにそは三更の夜陰を劈(つんざ)く
今日の日の凄烈たる意志――

 

「寒柝」『寒柝』全文

「靑き海見つ」『寒柝』

ひととせははやくめぐりて
きのふけふその花にほふ
をかのべの梅の林を
もとほりつ
靑き海見つ
靑き海見つ
寒き梢に
的皪(てきれき)と咲くやこの花
はつはつにこのもかのもに
蕋(しべ)は黃に天をゆびさし
香はかをれ
ほのかなる香の
その香よりさらにほのかに
ひとすぢの煙をなびかせ
みづからの影もけぬがに
かぎろひつ沖のはたてを
わたる船見ゆ
船一つ見ゆ
日の晝を羽音さやかに
枝うつる小鳥のともも
なほうたはなくてひそかに
しぬびたり林の道を
民くさのわれもますらを
感にたへ情にしぬびつ
もとほりつ
靑き海見つ
靑き海見つ
いくさあるさかひにつづく
みんなみの
ひんがしの

見るかぎり
ただかがよへる
紺靑の
靑き海見つ
花の間に
靑き海見つ

 

「靑き海見つ」『寒柝』全文

「起󠄁て佛蘭西!」『寒柝』

世に最賤劣の裏切あり
世に最酷薄の忘恩あり
世に最鐵面皮の破廉恥あり
世に何事か忍びて爲さざるなきの意思あり
然り 我らそを太陽の下に見る
我らそを今日つぶさに眼前に見たり
起て佛蘭西!
昨は汝の精銳十萬フランダースの野に竭きし時
砲聲を彼方に聞きすて
三軍むなしく盟に叛きて
逃げ足はやくもおめおめと
戰友の屍を踏みて走せ去り落ちのびし者共
この日醜類(しうるゐ)を語らひて
すでに傷つき倒れたる汝の背後に
思ひきやさらに匕首を加へんとは
起て 佛蘭西!
淺からぬ昨の痛手はつつみても起てゴーロアが勇武の子ら
起ちて再び干戈をとれ!
時はこれ上下三千年一切文化存亡の秋
時はこれ人倫廉恥の危機ぞ
起て 佛蘭西!
起ちて汝が陣頭に譽れある汝の旗をうち樹てよ  起て新らしき我らが友  起ちて汝が光榮の歷史と正義の名に應へよ
起て佛蘭西! 起て佛蘭西!
いかでこは ひと度事に敗れたる ただに汝が復讐の戰さといはんや
げに今し 馨なく四方に沈默せる 深き世界の良心は
汝の背後にひとしく切齒扼腕せり
起て佛蘭西!
起て我が陣營の勇武の友
今こそ起ちて かの腹黑きアングロサクソン
譎詐つくるところなく 貪婪とどまるところなき
常習虛僞の淵藪を
かの假面紳士道德と かの僣稱人道主義との
一切悖徳の病竈(びやうさう)を
渾地表外に逐ひ出さん
起て我が陣營の勇武の友
起て 佛蘭西!

 

「起󠄁て佛蘭西!」『寒柝』全文

「梅林小歌/-相模野乙女に代りてうたへる」『寒柝』

み軍(いくさ)はみなみにすすみ
西東一萬海里
天つ日の光ひた射す
海原に陸(くが)に小島に
日のみ旗なびかひゆかず
しのびつつ初夏の野に
ほととぎす啼きわたる日に
あまさかるひなの乙女が
うたうたひいく日か摘める
これはこれ梅のまろ實ぞ

 

しろたへの富士の高嶺を
まなかひにふりさけあふぐ
畑なかに香もかぐはしく
花さける梅が枝のうめ
靑き實のつぶらつぶらを
家々にとりあつめたる
ひろ庭に筵(むしろ)しき干し
紫蘇の葉の色にも香にも
けざやかにめでたく染めし
これはこれ里のはまれぞ

 

いざ食(お)させますらをのとも
路もなきジャングルをわけ
鰐のすむ水をわたりて
鐵兜しのびの緒さへ
ときたまふいとまはあらぬ
追擊のいくさのなかば
み佩刀(はかせ)ははかせたるまま
火銃(ほづつ)さへ膝によこたへ
束の間の晝餉(ひるげ)したまふ
芭蕉葉のすずしきかげに

 

ふるさとの野ぺのものこそ
かかる時あななつかしと
あるはまた爆擊行の
任はててかへるさの空  スコールのすぎゆくあとを
編隊の翼かろらに
全機無事基地にむかはす
靑空に食させてよかし
けふの日のいくさの手柄  かたりつつ武運めでたく

 

はたはまた千尋(ちひろ)の海を
かづきゆく幾萬海里
高波も颶風(はやち)もものか
あたの海ふかくしぬびて
一擊の機をまたすらん
あなたふと潛水艦に
乘組ますますらをのとも
たまゆらのいこふまもなき
ところせき機関のひまに
食させてよ賤(しず)が手(た)づくり

 

さねさし
さがみの野ぺの乙女子が
赤きこころにそめし梅の實

 

「梅林小歌/-相模野乙女に代りてうたへる」『寒柝』全文

「梅林小歌/-相模野乙女に代りてうたへる」『寒柝』

み軍(いくさ)はみなみにすすみ
西東一萬海里
天つ日の光ひた射す
海原に陸(くが)に小島に
日のみ旗なびかひゆかず
しのびつつ初夏の野に
ほととぎす啼きわたる日に
あまさかるひなの乙女が
うたうたひいく日か摘める
これはこれ梅のまろ實ぞ

 

しろたへの富士の高嶺を
まなかひにふりさけあふぐ
畑なかに香もかぐはしく
花さける梅が枝のうめ
靑き實のつぶらつぶらを
家々にとりあつめたる
ひろ庭に筵(むしろ)しき干し
紫蘇の葉の色にも香にも
けざやかにめでたく染めし
これはこれ里のはまれぞ

 

いざ食(お)させますらをのとも
路もなきジャングルをわけ
鰐のすむ水をわたりて
鐵兜しのびの緒さへ
ときたまふいとまはあらぬ
追擊のいくさのなかば
み佩刀(はかせ)ははかせたるまま
火銃(ほづつ)さへ膝によこたへ
束の間の晝餉(ひるげ)したまふ
芭蕉葉のすずしきかげに

 

ふるさとの野ぺのものこそ
かかる時あななつかしと
あるはまた爆擊行の
任はててかへるさの空  スコールのすぎゆくあとを
編隊の翼かろらに
全機無事基地にむかはす
靑空に食させてよかし
けふの日のいくさの手柄  かたりつつ武運めでたく

 

はたはまた千尋(ちひろ)の海を
かづきゆく幾萬海里
高波も颶風(はやち)もものか
あたの海ふかくしぬびて
一擊の機をまたすらん
あなたふと潛水艦に
乘組ますますらをのとも
たまゆらのいこふまもなき
ところせき機関のひまに
食させてよ賤(しず)が手(た)づくり

 

さねさし
さがみの野ぺの乙女子が
赤きこころにそめし梅の實

 

「梅林小歌/-相模野乙女に代りてうたへる」『寒柝』全文

「われら銃後の少國民」『寒柝』

ああ天高く地は廣き
亞細亞の柱日の本の
男の子と生れ大君の
やがてみ楯と生ひたちて
さきもにほはん櫻花
われら銃後の少國民

 

ああ山靑く水淸き
わが日の本は住む人の
こころも直ぐひとすぢに
み國をおもひ身をすてし
いさをを誰か忘るべき
われら銃後の少國民

 

ああ風早く波荒き
四海をしづめ導かん
正義の道はとこしへに
かはる時なし後の世も
いかでか讐をゆるすべき
われら銃後の少國民

 

「われら銃後の少國民」『寒柝』全文