三好達治bot(全文)

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「櫻花繚亂」『寒柝』

さくらの下に子らあまたつどひて遊べ
うらうらとさくらの花のさきいづる並木のかげは
ものなべてほのかににほひ明るみて
肌さむき日のうす陽さへわきてなつかし
こぞの日のかかる春日はるひもわれはこの水のほとりに
古椅子にいこひてものを思ひたり
國こぞり讐のゑびすのかへり血の
みどりにそみてたたかへる野山はのどか
ほどちかき海の空よりきてまへる
鷗の翼かろらかになか空の風にあがれり
日の本はいくさする日もみやびかに
かしこに起る子らのうた
うらうらと櫻の花のさきいづるかげをゆきかふ
げにもこれおどろの路をふみわきて
われらの正義四方よもに布く
艱難と犧牲と榮譽
ふるき世にためしもあらぬ春の日を
はやかぐはしく散りいそぐ花は二ひら
三ひら五ひらわが袖にしばしやすらふ――

 

 

三好達治「櫻花繚亂」『寒柝』(S18.12刊)

「寒柝」『寒柝』

星冴え
山山か黝くたたずみ
聚落じゆらく寂莫として
灯火ともしび暗く睡れるに
丁鼕ていとうとはるかに馨あり
風死し
水渇れ
何ものの應ふるなきに
丁鼕と馨はひとり寒天に起り
げきたる彼方を步み來る
夜深くして睡らざるもの
凛烈たる意志
聽けそは如何に耳朶にこころよきかな
地表のものすべて今は結氷し 氷割ひわれ 假死し
この尊ぶかき聚落の頭上滿天に
欄干らんかんたる星辰のみただ頻りにわななける折しも
ここに戞然として擊柝げきたくの馨路上にあり
そはわが窓下を過ぎ
遠く彼方に去る
頗る深省を發せしむるもの
まことに警世の馨といふべし
げにそは三更の夜陰をつんざ
今日の日の凄烈たる意志――

 

 

三好達治「寒柝」『寒柝』(S18.12刊)

「靑き海見つ」『寒柝』

ひととせははやくめぐりて
きのふけふその花にほふ
をかのべの梅の林を
もとほりつ
靑き海見つ
靑き海見つ
寒き梢に
的皪てきれき咲くやこの花
はつはつにこのもかのもに
しべは黃に天をゆびさし
香はかをれ
ほのかなる香の
その香よりさらにほのかに
ひとすぢの煙をなびかせ
みづからの影もけぬがに
かぎろひつ沖のはたてを
わたる船見ゆ
船一つ見ゆ
日の晝を羽音さやかに
枝うつる小鳥のともも
なほうたはなくてひそかに
しぬびたり林の道を
民くさのわれもますらを
感にたへ情にしぬびつ
もとほりつ
靑き海見つ
靑き海見つ
いくさあるさかひにつづく
みんなみの
ひんがしの

見るかぎり
ただかがよへる
紺靑の
靑き海見つ
花の間に
靑き海見つ

 

 

三好達治「靑き海見つ」『寒柝』(S18.12刊)

「起󠄁て佛蘭西!」『寒柝』

世に最賤劣の裏切あり
世に最酷薄の忘恩あり
世に最鐵面皮の破廉恥あり
世に何事か忍びて爲さざるなきの意思あり
然り 我らそを太陽の下に見る
我らそを今日つぶさに眼前に見たり
起て佛蘭西!
昨は汝の精銳十萬フランダースの野に竭きし時
砲聲を彼方に聞きすて
三軍むなしく盟に叛きて
逃げ足はやくもおめおめと
戰友の屍を踏みて走せ去り落ちのびし者共
この日醜類しうるゐを語らひて
すでに傷つき倒れたる汝の背後に
思ひきやさらに匕首を加へんとは
起て 佛蘭西!
淺からぬ昨の痛手はつつみても起てゴーロアが勇武の子ら
起ちて再び干戈をとれ!
時はこれ上下三千年一切文化存亡の秋
時はこれ人倫廉恥の危機ぞ
起て 佛蘭西!
起ちて汝が陣頭に譽れある汝の旗をうち樹てよ  起て新らしき我らが友  起ちて汝が光榮の歷史と正義の名に應へよ
起て佛蘭西! 起て佛蘭西!
いかでこは ひと度事に敗れたる ただに汝が復讐の戰さといはんや
げに今し 馨なく四方に沈默せる 深き世界の良心は
汝の背後にひとしく切齒扼腕せり
起て佛蘭西!
起て我が陣營の勇武の友
今こそ起ちて かの腹黑きアングロサクソン
譎詐つくるところなく 貪婪とどまるところなき
常習虛僞の淵藪を
かの假面紳士道德と かの僣稱人道主義との
一切悖徳の病竈びやうさう
渾地表外に逐ひ出さん
起て我が陣營の勇武の友
起て 佛蘭西!

 

 

三好達治「起󠄁て佛蘭西!」『寒柝』(S18.12刊)

「梅林小歌」『寒柝』

   -相模野乙女に代りてうたへる

 

いくさはみなみにすすみ
西東一萬海里
天つ日の光ひた射す
海原にくがに小島に
日のみ旗なびかひゆかず
しのびつつ初夏の野に
ほととぎす啼きわたる日に
あまさかるひなの乙女が
うたうたひいく日か摘める
これはこれ梅のまろ實ぞ

 

しろたへの富士の高嶺を
まなかひにふりさけあふぐ
畑なかに香もかぐはしく
花さける梅が枝のうめ
靑き實のつぶらつぶらを
家々にとりあつめたる
ひろ庭にむしろしき干し
紫蘇の葉の色にも香にも
けざやかにめでたく染めし
これはこれ里のはまれぞ

 

いざさせますらをのとも
路もなきジャングルをわけ
鰐のすむ水をわたりて
鐵兜しのびの緒さへ
ときたまふいとまはあらぬ
追擊のいくさのなかば
佩刀はかせははかせたるまま
火銃ほづつ さへ膝によこたへ
束の間の晝餉ひるげしたまふ
芭蕉葉のすずしきかげに

 

ふるさとの野ぺのものこそ
かかる時あななつかしと
あるはまた爆擊行の
任はててかへるさの空  スコールのすぎゆくあとを
編隊の翼かろらに
全機無事基地にむかはす
靑空に食させてよかし
けふの日のいくさの手柄  かたりつつ武運めでたく

 

はたはま千尋ちひろの海を
かづきゆく幾萬海里
高波も颶風はやちもものか
あたの海ふかくしぬびて
一擊の機をまたすらん
あなたふと潛水艦に
乘組ますますらをのとも
たまゆらのいこふまもなき
ところせき機関のひまに
食させてよしずづくり

 

さねさし
さがみの野ぺの乙女子が
赤きこころにそめし梅の實

 

 

三好達治「梅林小歌」『寒柝』(S18.12刊)

「われら銃後の少國民」『寒柝』

ああ天高く地は廣き
亞細亞の柱日の本の
男の子と生れ大君の
やがてみ楯と生ひたちて
さきもにほはん櫻花
われら銃後の少國民

 

ああ山靑く水淸き
わが日の本は住む人の
こころも直ぐひとすぢに
み國をおもひ身をすてし
いさをを誰か忘るべき
われら銃後の少國民

 

ああ風早く波荒き
四海をしづめ導かん
正義の道はとこしへに
かはる時なし後の世も
いかでか讐をゆるすべき
われら銃後の少國民

 

 

三好達治「われら銃後の少國民」『寒柝』(S18.12刊)

「日本の子供」『寒柝』

日本の子供
日本の子供
世界一幸福な日本の子供
世界一重い責任と 世界一高い名譽とをになふ日本の子供
正義の戰さにうち勝ち 人道の上に明日の世界をうち建てるもの
日本
日本の子供
世界の地平に輝かしい夜明けをもたらすもの
世界に永遠の平和と 希望と 繁榮とを約束するもの
穢れなき一切の明日の日の新らしき出發をつるぎ にかけて保證するもの
日本
日本の子供

日本の子供
日本の子供
君らの雙肩にある責任 君らの頭上にある名譽
ああそは黃金の如く重く 黃金の如くまばゆく輝きたるを知れ
東西南北數千萬粁の戰場に
昨日きのふ 曠野の草に わたつみに注がれたる君らの父と兄の血潮は
卽ち今日君ら血管に脈うち流るるところの血潮
ああその昨日の正義と勇氣
いかでか明日あす の日に失はれん
日本の子供
日本の子供
世界一重大な使命にむかつて突進する日本の子供!

 

三好達治「日本の子供」『寒柝』(S18.12刊)